はじめに
30年以上のサラリーマン生活を一区切りさせ、森林で働き始めて約3ヶ月。山登りはしていたものの自然についての知識が乏しい。もっと自然について深く知りたくて、自然観察指導員講習館を受講した。
近場で早めということで、日本自然保護協会(NACS-J)の自然観察指導員の講習会が10月に千葉で開催されることを知り、あまり深く考えずに、申し込んでみた。
退職後は、『興味を持ったら、行きたいところに行って、やりたいことをやってみる』というスタイルを目指している。遊びも仕事もこのスタイルで行きたい。
日本自然保護協会(NACS-J)とは
「日本自然保護協会(NACS-J)」についても深く調べずに申し込んだ。公益財団法人で、歴史もありしっかり活動していることだけは確認した。
日本自然保護協会は、1951年に設立された日本で最も歴史のある自然保護NGOである。尾瀬ヶ原のダム開発に反対する運動をきっかけに設立されたと、講習会で教えてもらった。
自分が自然や環境問題に興味を持ったのは、小学生の時に尾瀬に連れて行ったことだった。小学生の時に尾瀬に行って、多くの登山者が来ることでアヤメ平が荒廃してしまった。そして、尾瀬ヶ原はそうなならないように懸命に保護活動をされていることを知った。
子供の頃の影響とは大きいもので、尾瀬での記憶が自分では気づかぬ深い心の奥底に残っていた。そして、その思いがふわっと湧き出てきて、30年以上携わった仕事は少しでも環境問題に役立ちたいという思いで選んだ。それなりに環境問題に貢献できたはず(とは思っている)。これからは違う形で関わっていきたい。
数年前に、40年経った今のアヤメ平に行ってみたら湿原は回復していて、素晴らしい景色に感動してしまった。

このような体験が、自分の人生の選択に大きく影響を与えているのだろう。
日本自然保護協会は、日本の豊かな自然と生物多様性を次世代へつないでいくことを目的とし、絶滅危惧種の保護、自然環境の調査・保全活動、地域と連携した自然との共生社会の実現などを目指して活動している。
その一つの活動して、「自然観察指導員」の育成にも力を注いでいる。その指導員の講習会に参加した。日本自然保護協会は、「自然観察からはじまる自然保護」を合言葉に、地域に根ざした自然観察会を開き、自然を守る仲間を育てていくというもののである。言葉に書くとあっさりして本質まで理解できないが、実際に自然観察会参加し、自分で自然観察会を企画・実行してみると、「自然観察からはじまる自然保護」という合言葉にしっくりきた。実際、自然を見る目が、見る(Look)から観る(Observe)へ変わっていくことを体感した。
自然観察指導員とは
「自然観察指導員」は、自然のしくみや大切さを人々に伝え、自然を守るための架け橋となる。ボランティアとして地域の自然観察会を企画・実施し、参加者に五感を使った自然の楽しみ方や自然との付き合い方を教える。観察会は、必ずしも山奥に行く必要はなく、身近な場所で開催できるという特徴がある。1978年から自然観察指導員制度を開始し、現在は3万人以上が自然観察指導員に認定され、活躍されている。
自然観察指導員の講習会
「自然観察指導員の講習会」は、1泊2日の日程で千葉県の昭和の森で開催された。2日間の日程は盛りだくさん。2日目には、自分でミニ自然講習会を企画・実行するというドキドキの内容だった。講師の熱意だけでなく、受講者58名の熱気もすごく、とても楽しく有意義な講習会だった。
受講者もいろいろなアリの栽培など特技や水族館勤務の経験を持たれた方も受講されており、休憩中や夜の情報交換会での交流も刺激になった。
<講習スケジュール>

※こちらは一例です。回によって内容や時間は異なります。最新の情報はNACS-JのHPをご覧ください。
会場は千葉市の郊外にある昭和の森。千葉市で一番標高が高くて、100mくらいある。上少し階段で下ると九十九里平野が広がるエリアにつながる。

野外実習は、昭和の森の中で行われた。
田んぼの中に侵入していく雑草をスケッチしたり、田んぼの生き物を観察した。また、目を瞑って、どんな音が聞こえるかということもした。鳥や秋の虫の音だけでなく、生き物以外の風の音や水田に流れ込む水の音が聞こえた。
下の写真は、昭和の森に残る「谷津」の風景。
「谷津」とは、丘陵地が浸食されて形成された谷状の地形のこと。神奈川では谷戸とも呼ぶらしい。水が湧き出ていて、田んぼや畑などの農作に適している。
講義の中で、どのような自然を残したいかという問いかけがあった。尾瀬のような大自然を残すことは大切だけど、自分はこのような里山を残したいと思っている。理由は、過疎化の影響で人の手が入らなくなり、里山が荒れてきているから。自然をただ守るというのでなく、「人間と自然が、GIVE & TAKEするような関係を維持したい。」人間が自然に手を加えること(GIVE)で、自然から水・きれいな空気・食物などを手に入れる(TAKE)という関係。そのような環境を維持できればという思いがある。

山の中の野外実習では、森の木々の様子を観察したり、土の硬さを竹串で刺して実感したり、木の赤ちゃんを探したりした。
土の表面の落ち葉からどのように土になっていくのかというのを、採集して並べてみることもしてみた。自分の足裏くらいの面積に数百万の生物、数百億レベルの微生物がいると教えてもらった。数字が大きすぎて想像もできないくらいだが、土になるまでどれくらいの生物が関わっているんだと思った。
藤井一至さんの「大地の五億年」を読んだことを思い出した。一人前と呼ばれる土になるには数千年から数万年かかるという。また、今の科学技術で同じような土を作り出すことはできない。貴重な自然の源であることを改めて理解した。
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草原では、ススキに似たオギの葉を観察した。
裏面を触るとツルツル。表面は葉っぱの先から根元に指を滑らすと切れるくらいザラザラであった。ルーペを使って表面を観察。3本くらいの筋があり、そこにある産毛によりザラザラであることがわかった。手で触っただけでは、全面に引っかかる感じがあったが、ルーペで拡大した観察すると詳細は違うものだと感じた。

自然観察だけが観察会ではないことも学んだ。落ち葉で、怒った顔と笑った顔を描いてみるという課題。子供たちには良さそうな課題である。落ち葉などに直接触れるという意味もあるらしい。また、怒った顔から描くときは少し表情が厳しくなり、笑った顔を描くときは自然と笑顔になる。だから、最初に怒った顔を描くのが良いことも気付かされた。下は我々のグループの作品だが、工夫したのは枝で作った顔の輪郭。怒っている人は頬がこけているが、笑っている人はふっくらをさせてみた。


自分の企画したミニ観察会
2日目の午後に、自分の企画したミニ観察会をグループ6人のメンバーに発表した。
専門分野や引き出しのある人は問題ないが、自分は一切の引き出しがない。サラリーマン時代の経験でも良いと言われたが、今までは人間観察ばかりで、ボーッと風景を眺めているだけだったことを実感した。
2日目の朝6時半からのオプション観察会に参加した時に、ひっつき虫が服に付いていた。これをテーマにすることを思いついた。

ミニ観察会のシナリオを考えた。
- 自己紹介
- まずは参加者に草むらを歩いてもらう
- テーマが何か問いかける → 服にたくさん付いたひっつき虫がテーマと気づいてもらう
- なぜひっつき虫が服につくのかルーペで観察 → 針が服にひっかかていると気づいてもらう
- なぜひっつき虫がつくのかのかな? → 遠くに種を運んで、良い環境のところで落としてもらう。そのため引っ付きやすくて取れやすい構造でなければならない。
- ひっつき虫をルーペで再度観察 → 引っ付きやすくて取れやすい構造は、針にかえしがないかと気づいてもらう
- 近くの植物で種子を遠くに運ぶ工夫はないか探してみよう → 実をつけた草があり、鳥などによって運んでもらう例に気づいてもらう
- まとめ
ここまでのシナリオを全て考えられる天才ではない。ルーペで観察することは、講師の秋山さんに教えてもらった。アドバイスのおかげで講習会の内容が深くなったのは間違いなかった。
講習会で注意しなければいけないのは、自分が説明しすぎることである。参加者が自ら気づくように導かならない。「不思議だなー。なるほど。」という体験をしてもらって、みずから自然への理解を深めてもらうことである。名前にこだわらなくても良い。専門用語をなるべく使わない。参加者と一緒に楽しむというのが大切である。とはいえ、実際いにやってみると、気づかせるのと説明するバランスの難しさを実感した。場数を踏むことが大切であると思った。
下の写真は、衣服に付いたひっつき虫。

拡大すると、針のようなもので服に引っかかっている。針にはかえしがなく、外れやすくもなっている。あまり遠くに運ばれると環境が違いすぎて、発芽できなくなってしまうのだろう。

小さな雑草であるが、ひたむきに生存する手段を持っているのことに気づかされた。
この講習会を終えると、今までは鬱陶しい存在のひっつき虫が服についても愛おしく感じてしまう自分がいた。これが自然への理解の一つだと実感した。
最後に、「自然観察指導員」の腕章を頂きました。

今度、釣りの師匠の高校の同級生たちにミニ自然観察会を実施してみよう。そう思い、ルーペを2個Amazonでぽちってしまった。



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