はじめに
伊豆の山々を歩き回っていると、時折、地図には載っていない驚くべき光景に出会うことがあります。先日、西伊豆の山域、標高約750m付近を探索していた時のことです。人の気配がほとんどない険しい山肌に、瑞々しい緑のわさび田が現れました。

ほとんど雨が降らない今年の冬。かろうじて、水が染み出していてチョロチョロ流れているだけ。
「こんな高い場所、厳しい環境にまで、わさび田があるのか…」
思わず足を止め、手入れの行き届いた美しさに驚いただけでなく、高所まで手入れをしている農家の人々の苦労を思いを馳せました。
伊豆最大のわさび田である「筏場」との違い
この発見の凄さを確かめるべく、後日、伊豆で最も有名な「わさびの聖地」、筏場(いかだば)のわさび田にも足を運びました。



筏場のわさび田は約15ヘクタールという圧倒的な広さを誇り、石積みが続く光景はまさに圧巻です。しかし、標高を確認してみると約350m〜400mほど。今回私が見つけた750m地点は、その倍の高さに位置していることになります。
筏場の標高750m付近では、川の水は枯れており、わさび田がある状況ではとてもありませんでした。
伊豆の最高地点はどこなのか?
調べてみると、伊豆のわさび栽培における「高さ」の基準が見えてきました。
| 場所 | 標高(目安) | 特徴 |
| 筏場のわさび田(※) | 約350m | 伊豆最大で、観光でも有名な景勝地 |
| 「野中わさび園」(西伊豆町大沢里) | 約740m | 一般的に知られる最高所のわさび田 |
| 今回の発見地 | 約750m | まさに「真・天空のわさび田」か!? |
一般にホームページで紹介される「天空のわさび田」を少し上回っていました。まだまだ知られていない高所にあるわさび田はあるかもしれません。しかし、今回遭遇したわさび田は、伊豆わさび栽培の「最高所」のひとつと言える場所でした。
※ 観光施設ではなく農業の現場であるため、見学時には邪魔にならないようマナーを守りましょう。
生命の神秘:過酷な環境が「最高の味」を作る
なぜ、これほどまでに厳しい高地でわさびを育てるのか?
土地を有効に活用しているだけではなく、それ以上の「生物学的な必然」があるように感じてなりませんでした。
標高750m、水も決して潤沢とは言えない厳しい環境。だからこそ「ここでのわさびは、より美味しくなる」と思いました。
植物は過酷な環境に置かれると、種の保存本能が働き、細胞内に栄養や風味成分を凝縮させる性質があります。
- ワインのブドウ: 痩せた土地で水分を制限されるほど、糖度と香りが凝縮し、最高級のワインになります。
- 高地栽培のコーヒー: 厳しい寒暖差が、豆に複雑で深いコクをもたらします。
このわさびも同じではないでしょうか。限られた水。寒い環境。そんな「極限のストレス」の中で、わさびは生き残るために自らの組織を緻密にし、独特の辛みと甘みを極限まで高めているはずです。それは、ぬくぬくと育ったものには決して出せない、「命の凝縮感」とも呼べる味なのです。
残って欲しい日本の風景「天空のわさび田」
標高750mでのわさびの栽培は、渇水と冬の凍結との戦いでもあります。それでもこの場所で守り続けるのは、この厳しい環境でなければ出せない「究極の味」があるからなのでしょう。
生産者の方のプライバシーと環境保護のため、具体的な場所は伏せておきます。
その美しさと、それを守る人の意志に、心からの敬意を捧げたいと思います。
ここも「残って欲しい日本の風景」のひとつでした。

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