【奈良・二上山〜當麻寺】五木寛之『百寺巡礼 第1巻 奈良』の舞台を歩く!古代史と曼荼羅の旅

大阪・奈良・京都・神戸
二上山の山ふところに抱かれるように広がる當麻寺

コース概要

本当は「京都一周トレイル」を3〜4日かけて歩こうと計画していたのですが、明日から台風の影響が出るとの予報。予定を変更し、今回は奈良の二上山から當麻寺(たいまでら)へと抜けるルートを緩く歩くことにしました。

行き先をここにしたのは、父の本棚にあった五木寛之氏の『百寺巡礼 第1巻 奈良』を読んだことがきっかけです。

【コース概要】

二上神社口駅 〜 加守神社 〜 二上山(雄岳)〜 二上山(雌岳)〜 岩屋 〜 祐泉寺 〜 當麻寺 〜 当麻寺駅

  • 合計時間    : 3時間29分 (活動時間2時間48分、休憩時間41分)
  • 距離      : 8.2km
  • 累積標高(登り): 507m  
  • 累積標高(下り): 512m

【標高グラフ】

古代の息吹を感じる近鉄南大阪線の車窓から

近鉄阿部野橋駅から南大阪線に乗り、登山口のある二上神社口駅へ向かいます。途中の古市駅で、急行吉野行きから切り離された後ろ2両が各駅停車となり、そのまま揺られていきました。

古市といえば、「百舌鳥・古市古墳群」として世界遺産に登録されニュースになりましたが、実際のところ、日本の世界遺産の中ではいまいち知名度が低いような気がします。そこが少し残念ですね。

古墳が群をなしているスケール感は壮大ですが、いざ近くで見ると「ポコポコとした雑木林の小山」にしか見えないのがネックなのかもしれません。世界遺産とはいえ、有名なのは堺にある仁徳天皇陵(大仙陵古墳)ばかりで、羽曳野市にある古市古墳群はあまり知られていない印象です。(ちなみに、メジャーリーガーのダルビッシュ有投手が羽曳野出身であることも、意外と知られていませんね)

しかし、今は大阪のマイナーエリアに思えても、ここは古代から多くの人々が住み、豊かな文化を築いてきた場所です。

古市を過ぎて車両が各駅停車に変わる頃、車窓にはブドウ畑が広がってきます。実は大阪は密かにブドウの産地であり、デラウェアの生産量は日本第3位。梅酒で有名な「CHOYA」の工場があるのも、古くからブドウ栽培とワイン醸造の基盤があったからです。古代から人が定住した土地というのは、それだけ作物の栽培に適した豊かな土地なのでしょう。

CHOYAの工場がある駒ヶ谷や、聖徳太子のお墓がある上ノ太子を通り過ぎます。車窓の風景に「聖徳太子」といった歴史的ワードがごく普通に溶け込んでいるあたりに、この地域の長く深い人々の営みを感じずにはいられません。そんな乗り鉄の時間を楽しみながら、県境を越えて奈良県葛城市の二上神社口駅で下車しました。

歩き始める前に、阿部野橋駅の改札横で買っておいたサンドイッチで朝ごはんにします。駅から見上げる二上山は意外と近く、すぐに登頂できそうな佇まいでした。

二上神社口駅から見上げる二上山

日本最古の官道と、ふたつの峰を持つ「二上山」

真っ直ぐ二上山へと向かう舗装道路を、緩やかに登っていきます。途中、加守神社で今日の安全を祈願しました。

まずは加守神社に参拝

【二上山と竹内街道について】

二上山は、その名の通りふたつのコブ(峰)を持つシルエットが特徴的な山です。標高は決して高くありませんが、奈良と大阪の県境に位置し、どこからでもよく目立つ地域のシンボルです。高い方の峰が雄岳(標高517m)、低い方の峰が雌岳(標高474m)と呼ばれています。 また、この二上山の南側を通る「竹内峠」と、そこを越える「竹内街道」は、推古天皇の時代(西暦613年)に整備された日本最古の官道(国道)です。飛鳥の都と、大阪の難波(海)を真っ直ぐに結ぶ、古代日本の大動脈でした。

獣害対策の柵を越えると、いよいよ登山道です。道はよく整備されており、二上山登山を日課にしていると思われる地元の方々が、軽装で軽快にすれ違っていきます。

獣害対策の柵を越えると、いよいよ登山道
山頂に近づくにつれて広葉樹林帯へ

程なくして、高い方の峰である雄岳に到着しました。展望はありませんが、山頂付近には「葛木二上神社」という小さな神社が静かに鎮座しています(近くには悲劇の皇子・大津皇子のお墓もあります)。

雄岳山頂近くにある葛木二上神社
雄岳山頂

一度、鞍部である「馬ノ背」まで下り、今度は雌岳へと登り返します。雌岳の山頂は広々としており、立派な日時計が設置されていました。ベンチもたくさんあり、ここで葛城山の美しい稜線を眺めながら小休止です。

葛城山とその向こうには金剛山

謎めいた石仏が残る「岩屋」を経て當麻寺へ

雌岳からは、當麻寺方面へ下山を開始します。低山ならではの細かい分岐や脇道が多く、標識も少ないため、進む方向に少し悩まされました。

途中の岩屋峠から少し寄り道をして、「岩屋」に立ち寄りました。

ここは凝灰岩の岩肌をくり抜いた洞窟のような場所で、中には古い石仏が彫られています。奈良時代から平安時代にかけての山岳信仰や、修験者たちの修行の場であったとも言われており、山の中に突如現れる古代の痕跡にハッとさせられます。

岩屋
倒壊した岩屋杉

少し道に迷いながらも當麻寺駅方面へと下っていきます。やがて一滴の雫が集まって小さな沢になり、そのせせらぎの横を歩く心地よい道になりました。

小さな沢沿いの道で当麻寺駅方面へ向かう

祐泉寺で舗装道路に出て、釣り堀やため池の脇を通り抜け、當麻寺の奥之院に到着。今回は奥之院には入らず、そのまま當麻寺の本堂エリアへと向かいました。

ため池に巨大な鯉が悠々と泳いでいた

ふたつの宗派が共存する奇跡の寺「當麻寺」

五木寛之氏の『百寺巡礼 第1巻 奈良』の中で、當麻寺については非常に興味深い記述がいくつもありました。

◆立地とご本尊

二上山の山ふところに抱かれるように広がるお寺。ご本尊は仏像ではなく、「當麻曼荼羅」と呼ばれる約4メートル四方の巨大な織物です。(※曼荼羅とは、仏の悟りの境地や、極楽浄土の世界観を視覚的な図像として表現したものです)

當麻曼陀羅(當麻寺のHPより)

◆中将姫伝説

この當麻曼荼羅は、西暦763年に「中将姫」という女性が、ハスの糸を使って一晩で織り上げたという伝説が残されています。本堂には中将姫の像も安置されています。

◆宗派の壁を越えた共存

當麻寺は特定のひとつの宗派に属しているわけではなく、真言宗と浄土宗が混ざり合って管理しています。西暦612年の建立後、空海が立ち寄ったことで真言宗の寺院となり、鎌倉時代になると中将姫伝説が阿弥陀信仰(極楽浄土への信仰)と結びついて浄土宗が入ってきました。そのため、現在も2つの宗派が境内で共存するという珍しい形をとっています。

◆日本唯一の双塔

奈良時代の創建当時の姿のまま、東塔と西塔の「両方の三重塔」が残っているのは、日本でここ當麻寺だけです(薬師寺にも立派な塔が2つありますが、あちらの片方は再建されたものです)

今回は二上山から下山してきたため、五木寛之氏がお勧めする正規の「仁王門」からではなく、いきなり国宝の本堂脇に出る形になってしまいました。しかし、そこから見上げる西塔の姿は十分に壮観でした。

国宝の金堂
金堂と西塔

拝観料1000円を払い、いざ本堂の中へ。

ここでご本尊の「當麻曼荼羅」をじっくり見学します。展示されているのは原本ではなく16世紀初頭(約500年前)の室町時代に作られた写本(文亀曼荼羅)ですが、それでも大変立派で見る価値があります。ただ、金網がかかっており、堂内も暗いため細部までよく見えないのが少し残念でした。

中将姫の像も安置されており、事前に本を読んで知識を入れていた分、感慨深く眺めることができました。本堂の内陣は天平時代のもので、丸太をそのまま使った力強い柱がとても印象的です。

その後、受付の方にお願いして鍵を開けてもらい、講堂と金堂も見学しました。金堂の中央には国宝の弥勒菩薩像が鎮座し、その周りを四天王が囲んでいます。四天王のうち3体は白鳳時代のもの、1体は鎌倉時代のもの。四天王好きにはたまらない空間です。

金堂のあとは、奈良時代から残る国宝の西塔と東塔を見に行きました。薬師寺のように2つの塔を一度に画角に収めて眺めることは難しい構造ですが、近づくにつれて木組みの歴史と重みを感じる素晴らしい塔でした。

西塔
東塔

最後に、日本最古のものと言われる国宝の梵鐘と、本来の入り口である仁王門を見学して境内を後にしました。

日本最古のものと言われる国宝の梵鐘
仁王門

法隆寺や薬師寺のような超メジャーな観光寺院ではありませんが、二上山の自然にすっぽりと抱かれるように存在する當麻寺は、とても静かで素敵な場所でした。

二上山の自然にすっぽりと抱かれるように存在する當麻寺

「生」と「死」の境界線としての二上山

五木寛之氏の著書を読んで、最もハッとさせられたのがこの一節です。

「生の世界と死の世界の境にあるのが當麻寺である」

古代の飛鳥の都から見ると、太陽は東の三輪山から昇り、西の二上山へと沈んでいきます。当時の人々は、二上山の手前(東側)を「現世」、二上山の向こう側(西側)を「浄土(死後の世界)」と考えていました。その生と死の境界、まさに要に位置していたのがこの當麻寺だったのです。

飛鳥時代の権力者の多くが、二上山を越えた西側、つまり河内の国に葬られました。

「だから、あそこに古市古墳群ができたのか!」

朝、近鉄電車の車窓から眺めていた古墳群の存在理由が、この時すべて一本の線で繋がりました。歴史を学ぶ楽しさは、まさにこういう瞬間にあります。

注文してから作る「ヤマトの柿の葉寿司」

當麻寺駅へ向かう途中、「ヤマト」というお店で柿の葉寿司の『味7色』を購入しました。

柿の葉すしヤマト(当麻店)
味七色という柿の葉寿司

鯖(サバ)や鮭(サーモン)といった定番だけでなく、「しいたけ、さんま、えび、鶏そぼろ、たい」という変わり種が入っているのが面白いです。何より、作り置きではなく注文してから作ってくれるのが嬉しいポイント。家に持ち帰り、晩御飯として美味しくいただきました。

「しいたけ、さんま、えび、鶏そぼろ、たい」という変わり種が入っている
しいたけの見た目は松茸にも見える

本日は急用ができたため、當麻寺駅から足早に帰宅することになりました。

当麻寺駅で下山終了

時間にしては短いハイキングでしたが、五木寛之氏の視点を借りることで、太古のロマンと人々の死生観を深く感じることができる、非常に濃密な山歩き・寺歩きとなりました。

ヤマレコ記録

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