有吉佐和子『日本の島々、昔と今。(焼尻島・天売島)』を読んで 〜ニシンの記憶と変わらぬ人間の本質〜

北海道

はじめに

有吉佐和子氏の小説『有田川』を読んだことをきっかけに、彼女の別の本にも触れてみたいと思った。そこで選んだのが、小説ではなく紀行文の『日本の島々、昔と今。』だ。面白そうなのでAmazonで購入してみた。

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自分自身もブログで旅のことを書いているが、天才作家と自分とでは、その文章レベルは月と地球の距離ほども離れている。それでも、少しでも彼女の紀行文に近づきたいという思いがある。実際に読んでみると非常に興味深い内容だったので、このブログでも紹介したい。

まずは第1章の「焼尻島・天売島」についてである。この章を読んだだけで、有吉さんが訪れてから40年以上が経った現在の島々に無性に行きたくなってしまった。 実は、自分が大学2年生の時に車で約1ヶ月かけて北海道を一周した際、これらの島の近くを通りかかっている。上陸こそしなかったものの、「ザ・辺境の島」というイメージがあり、今でも記憶に深く刻まれている。

「焼尻島・天売島」の位置:

有吉佐和子氏と私の意外な共通点

読んでいて共感したのは、有吉さんの旅のスタイルだ。旅の前には、あえて入念な下調べをしない。「新鮮な気持ちでその土地を見たい」というスタンスをとっており、自分と同じスタイルで嬉しくなった。しかしながら、いざ現地に入ってからの調査と観察眼は凄まじく、内容がとにかく濃い。

さらに驚いたのが、彼女が旅先でランニングをしていることだ。当時の年齢を調べてみると48歳。旅先でランニングをするという点も自分と似ていて、なんだか親近感が湧いてしまった。

海を白く染めたニシンの記憶

焼尻島・天売島といえば、かつては「ニシン御殿」が建ち並んだ世界だ。明治から昭和初期にかけて、北海道の日本海側はニシン漁で莫大な富を築いた。産卵期になると無数のニシンが押し寄せ、オスの精子で海面が真っ白に染まる「群来(くき)」と呼ばれる現象が起きていたという。

当時は「網を入れれば札束が獲れる」と言われたほどの好景気で、島は不夜城のように賑わった。しかし、乱獲や海洋環境の変化もあり、昭和29年(1954年)以降はぱったりと姿を消してしまったという。ニシンといえば数の子だが、広い海が白くなるほど押し寄せていた時代の熱気は凄まじかっただろう。

そして、このニシンの話は、先日読んだ『有田川』とも繋がっている。キーワードは「肥料」だ。 当時、あまりに大量のニシンが獲れすぎると値崩れを起こすため、食用として売りさばけない分は、煮込んで油を搾り、残りかすを乾燥させて「鰊粕」などの高級肥料として出荷していた(イワシで作る「ホシカ(干鰯)」と同様に扱われていた)。これが、和歌山の有田みかんをはじめとする全国の農作物の栽培を支えていたのだ。『有田川』の小説の中にもその背景が描かれており、思わぬところで点と点が線になった。

時代はめぐる〜オイルショックと現在〜

有吉佐和子さんが焼尻島・天売島を訪れたのは、昭和54年(1979年)。ドラマ『北の国から』が始まる少し前である。第2次オイルショックの直後だったため、現地の人々の最大の悩みは「石油(重油)の価格高騰」だった。時代が経っても、エネルギーや物価に対する人々の悩みは変わらないものだと、かえって新鮮な感覚を覚えた。中島みゆきの歌『時代』のように、「時代はめぐる」のだ。

有吉さんは、東京に帰ってから石油不足の原因を独自に調査している。その結果、サプライチェーンの途中に売り惜しみをして値上がりを待っている組織が存在することが原因だと突き止めている。最近話題になったお米やエネルギー価格の高騰やナフサ不足と同じ構図であり、人間のやることは今も昔も変わらないと痛感させられる。

自然の恵みに沸いたニシン御殿の時代も、石油という資源に翻弄された時代も、そして現代の物価高騰も、結局は人間の変わらない本質を表しているのではないか。

いつか「走る旅・歩く旅」で焼尻島・天売島へ

色々と調べているうちに、『天売島の自然観察ハンドブック』という面白そうな本を見つけた。

周囲12kmの小さな島。走る旅・歩く旅という、まさに「走歩旅」にベストマッチなサイズなのかもしれない。いつかこの本を片手に、焼尻島・天売島を自分の足で周ってみたい。

「8種類、100万羽の海鳥が繁殖する周囲12kmの小さな島には、ほかに類を見ない貴重な自然が凝縮され、間近に観察することができる。102種類の野鳥と30種類の花の図鑑に加え、詳細な観察ポイントを紹介した、天売島ガイドの決定版。隣の焼尻島の情報も収録。生き物の写真はすべて天売島・焼尻島内で撮影したもので、詳しい撮影ポイントも記載。2つの島の観察ポイントを紹介。各ポイントのどの場所で、どんな鳥や花が見られるのかを詳しく解説。天売島の気候と適した服装、おすすめの時期、お土産、アクセス方法、宿泊や観光の案内といった旅の基本情報も収録。」

文一総合出版HPより

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