【北アルプス】黒部ダムから奥黒部ヒュッテへテン泊釣行|アスレチック街道を行く1日目(前編)

歩く旅
手製のハシゴと橋が連続するアスレチック街道

はじめに

昨年のソロでの三俣山荘テン泊釣行に続き、今年は黒部川の下流部にあたる奥黒部ヒュッテ周辺でのテン泊釣行を計画しました。

👉 昨年の「三俣山荘テン泊釣行」の記事はこちら

黒部川源流で日本最高所に棲むイワナを釣り&鷲羽岳登山【山行記】
はじめに日本最高所に棲むと言われるイワナを釣りに、黒部川の源流に行ってきました。釣行記については、「黒部川源流で日本最高所に棲むイワナを釣り&鷲羽岳登山【釣行記】」に書いています。日本最高所と言われるイワナは標高2400mくらいに棲んでいま…
黒部川源流で日本最高所に棲むイワナを釣り&鷲羽岳登山【釣行記】
はじめに初心者🔰釣りシリーズです。日本最高所に棲むと言われるイワナを釣りに、黒部川の源流に行ってきました。黒部川の源流は、鷲羽岳付近にあります。北アルプスの最深部で、どの登山口からも辿り着くのに2日掛かります。長野県側からは高瀬ダム、岐阜県…

同行者は高校の同級生で釣りの師匠。彼が釣りをリード、私が登山をリードという役割分担です。

今回の目的地である奥黒部ヒュッテは、滞在している方のほとんどが一般の登山客ではあるものの、その顔ぶれは、真底からの山好きや山慣れた人たちが集う場所です。これから読売新道を一気に登り詰めて赤牛岳〜水晶岳方面を目指す挑戦者か、あるいは数々の過酷な稜線を繋ぎ、3泊以上のハードな縦走を終えて黒部ダムへと下山していく途中の猛者たちが大半を占めています。まさに長旅を支える山慣れた熟練者が集う拠点であり、山小屋全体に静かな緊張感と達成感が漂う味のある空間です。

そんな深部を目指す今回のルートは、黒部ダムから黒部湖の岸をなぞるように歩き、平ノ渡しで対岸へ渡って奥黒部ヒュッテを目指すコース。地図上の標高グラフだけを見ると湖畔沿いの平坦な道に思えますが、実態は「アスレチック街道」とも呼ばれ、丸太の手製のハシゴや橋、崩壊地の高巻きが延々と続く、北アルプスの中でも体力的・技術的な難易度が高い「中・上級者向け」のタフな道のりです。

テン泊装備に加え、テンカラ釣りの道具一式を詰めたザックの重量は約14.5kg。ずっしりとした重みを背中に感じながらの出発となりました。

【ルート図】

【標高グラフ】

【コースタイム】

扇沢から電気バスで黒部ダムへ

シルバーウィーク最終日の早朝、友人の車で扇沢へ向かいました。6時過ぎに到着すると、無料駐車場(隧道の手前、扇沢駅まで徒歩10分)にギリギリ車を停めることができました。

扇沢駅の無料駐車場

扇沢からは立山黒部アルペンルートの電気バス(7時30分発のこの日の始発、片道1,800円)に乗車。始発前の改札には登山者や観光客の荷物が並び始めます。駅の1階でWeb予約のQRコードで発券を済ませ、列に並んで無事に1台目のバスに座ることができました。

15分ほどで黒部ダムに到着。迫力ある観光放水を眺め、澄んだ空気の中で見上げる立山連峰の美しい景色に背中を押されるようにして、8時前に歩き始めました。まずは中間地点となる平ノ小屋の12時発の渡し船を目指します。

黒部ダムの観光放水
立山方面
これから向かう黒部湖方面

前半:黒部ダム 〜 ロッジくろよん 〜 平ノ小屋

黒部ダムを出発し、最初は遊歩道をロッジくろよん方面へ向かいます。ロッジくろよんを過ぎると本格的な山道に入り、最初の木の手製の橋を渡ります。一つ目の橋は揺れが大きく、少し緊張感が走ります。

ロッジくろよんから下ると最初の手作り木製の橋

ここからは黒部湖に注ぐ沢を幾度となく越えていきます。地図上はフラットに見えますが、ノコギリの歯のように細かいアップダウンが繰り返し現れます。

イワナがいそうな沢を越えていく
今まで見たこともない大きさの檜

⚠️ 大きな河原での「道迷い」トラップ(御山谷・中ノ谷)

この区間で特に注意したいのが、「御山谷」と「中ノ谷」という2か所の大きな河原でのルートを見失いやすいです。

森から突然ゴロゴロとした巨石の広がる河原へ出るため、それまで明瞭だった踏み跡が途切れて一瞬「道が消えた?」と戸惑います。

  • 迷いやすい理由:毎年の融雪や大雨でケルン(目印の積み石)やピンクテープが流失しやすいこと、また対岸の登山道が山側で、河原の目線から見えにくいことが原因です。開けている河原沿いを歩いてしまうのも迷いやすい原因です。
  • 見極めのコツ:河原に出たら焦らず一度立ち止まり、対岸の木々の境目をじっくり見渡します。少し山側に赤テープや登山道が見えることが多いので、そこを目印に渡りましょう。GPSアプリで現在地を縮尺最大にして確認するのも非常に有効です。
河原から登山道への入り口は分かりにくいので注意が必要

平ノ小屋に近づくにつれて傾斜は増し、お手製のハシゴの数も増えてきました。手すりが設置されているため安定感はありますが、ステップが折れている箇所もあるため、急な荷重をかけないよう慎重に足を置きます。また、細い丸太もあり、気を使いながら進むことになります。

トラバース部は橋で越える
ハシゴの下り
平ノ小屋に近づくにつれて、アップダウンが激しくなる
一歩ずつ滑らないように登っていく

一歩踏み外せば湖面まで滑落しかねないトラバースを乗り越え、約3時間半の歩行を経て、11時15分に平ノ小屋へ到着しました。

水場で顔を洗って、購入したコーラでひと息ついてリフレッシュします。

平ノ小屋

黒部湖を横断する「平ノ渡し」と、船頭さんの知られざるハードワーク

平ノ渡しの船着場へは、平ノ小屋から急なハシゴを下っていきます。ここでの上下移動が、この日一番息が上がったポイントとなりました。

渡し船の乗り場までは、急な下り

平ノ渡しは、ダム建設によって登山道が水中へ没したため、関西電力が運航している無料の渡し船です。

このルートを踏破する上で「船の運航時間厳守」は絶対条件です。夏期でも1日5便(6:00 / 10:00 / 12:00 / 14:00 / 17:00など)しか運航されません。特に14:00の便に乗った場合、対岸からヒュッテまで約3時間かかるため、到着は17:00頃と山の行動としてはかなりギリギリになります。ハシゴ地帯でのペースダウンを見越し、早朝出発で余裕を持つことが鉄則です。

渡し船の時刻表

ライフジャケットを着用し、定刻通りにやってきた渡し船に乗り込みます。乗船名簿に記入を済ませ、いざ出発。この回の乗客は僕たち2名のみで、乗組員3名を合わせた5名で対岸へと向かいました。

風を切りながら静かな黒部湖を渡る時間は、わずか5分〜10分ほど。緊張した神経を、湖上の風が優しく解きほぐしてくれました。

登山中に渡し船に乗るのは珍しくて、気分がリフレッシュ

船上で乗組員の方とお話しする機会がありました。実はこの平ノ渡しを運航しているスタッフの方々は、平ノ小屋に常駐しているわけではなく、毎日長野県の大町市の方から通っているのだそうです。

早朝、大町から車で扇沢へ向かい、関電の専用トンネルを通って黒部ダムへ。そこから一般観光客は入れない船乗り場から渡し船に乗り、黒部湖を南へ一気に縦断してこの渡し場までやってくるのだとか。

夏期の第1便(6:00発)に間に合わせるためには、大町の自宅を朝4:00過ぎに出発し、夕方17:00の最終便を終えて大町へ帰る頃には夜8時近くになりそうです。1日15時間にも及ぶ過酷なスケジュールです。

私たちがこうして北アルプスの深部へ安全にアクセスできるのは、乗組員の方々の並々ならぬハードワークのおかげなのだと深い感謝の気持ちでいっぱいになりました。

⭐️なぜ無料で乗れる?「平の渡し」と関西電力の知られざる歴史

黒部湖を渡るために利用する「平の渡し」。ここは一般的な観光船や民間の渡し船ではなく、実は関西電力が運営しています。

富山県の深山で、なぜ関西の電力会社が船を走らせているのでしょうか。

その理由は、昭和30年代に行われた黒部ダムの建設にあります。

もともとこの地域には、五色ヶ原・立山と針ノ木峠などを結ぶ古くからの道が存在していました。しかし、関西電力が巨大な黒部ダムを建設したことで黒部川がせき止められ、従来の徒歩ルートは湖底へと沈んでしまったのです。

そこで関西電力は、「ダム建設によって途絶えてしまった登山道・旧道を補償・維持する」という役割のもと、対岸へと渡るための船の運航を義務付けられました。

現在でも、登山者などの貴重な交通の足として運航が続けられており(※例年6月下旬〜10月下旬の季節運航)、乗船料が無料なのもそうした歴史的経緯があるためです。巨大なインフラ事業の裏側にある歴史と関西電力の責務を感じながら湖を渡ると、また違った味わい深さがあります。

後半:対岸 〜 奥黒部ヒュッテの核心部

対岸の針ノ木谷側に下船すると、すぐに急な登りハシゴが待ち受けていました。船で一休止した後のこの登りが、体にずっしりと効いてきます。

対岸に着くと、急なハシゴが待ち受ける

ここから奥黒部ヒュッテまでの区間こそが、このルートの本当の核心部でした。

歩き始めの黒部湖畔沿いは、予想外にも歩きやすい道でした。しかしながら、半島の先を越える時や沢周辺の崩壊地では、斜度が垂直に近いハシゴや、崖に丸太を渡しただけのハシゴと階段がこれでもかと連続します。重いテン泊装備を背負っているため、ハシゴの昇降では「三点支持の徹底」と、ハシゴにしがみつかず腕を軽く伸ばしてザックの重心を安定させる「姿勢の維持」が欠かせません。万が一でなく、億万が一足を滑らしたり、丸太が割れても滑落しないような準備をしながら進みます。

登っては下り、崖を切り開いた高いトラバースを越えては、また長いハシゴを登るという作業が延々と続きました。

黒部川が見えてくると、核心部に入っていく
長い橋は滑って踏み外さないように慎重に歩く
アップダウンもあり、体力が削られる
長ーい下り
下った後は、長ーい登り

⚠️ 【重要】実体験から伝える「黒部川が見えてからの精神的トラップ」

この後半戦で、同行した友人がしみじみと口にした言葉がありました。

「黒部湖が終わって、黒部川が見え始めてからが一番辛かった……」

実はこれこそが、このルートに潜む最大の「精神的トラップ」です。

延々と続く過酷な高巻きをこなしていると、やがて静かな黒部湖から、荒々しい「黒部川の本流」へと景色が移り変わります。川の音が大きくなると、脳は勝手に「あぁ、湖畔が終わった!もうすぐ小屋だ!」と期待してしまいます。

しかし、「本当の試練はここから」です。

川が見えてからも、連続する垂直ハシゴや崩落箇所の高巻きがいくつも残っています。「もうすぐ終わり」と緊張を緩めた直後に現れる激しいアップダウンは、通常の何倍も精神と体力を削っていきます。スタートから6〜7時間が経過し、疲労がピークに達した状態でのハシゴ昇降は、最も滑落事故が起きやすいタイミングです。

この区間を安全に乗り切るための教訓

  • 「川が見えてからが後半戦の本番」とあらかじめ刷り込む:「川が見えたらゴール」ではなく、「ここから最終決戦が始まる」と最初から覚悟しておきます。
  • あえて5分間の休憩を入れる:川が見えた瞬間に一度ザックを下ろし、行動食(ラムネやジェルなどの糖質)と水分を補給して、「ここからが一番危ないぞ」と気持ちを入れ替えます。
  • 踏み出す一歩だけに集中する:「小屋はまだか」と遠くを探すのをやめ、「今踏み出す一歩を絶対に滑らせない」ことだけを意識して淡々と歩を進めます。

特に、「小屋はまだか、山頂はまだか」を捨て、ただ目の前の一歩に没頭する。

いつも登山をしていて、この気持ちの切り替えが重要なことが身に染みます。

「小屋はまだか」「あとどれくらい登るのか」——遠くを見上げ、終わりの見えない道のりに焦るとき、心と体は一気に重くなります。まだ届かない未来をコントロールしようとするその焦りこそが、疲労を何倍にも増幅させていたのだと気づきます。

東洋哲学の老荘思想には、「無為自然」という考え方があります。「人間のエゴを捨て、ありのままの大自然の流れに身を委ねて生きる」という姿勢や生き方を意味します。

実はこれ、現代のメンタルヘルスや心マインドフルネスでも非常に重視されています。今、ここに意識を集中することです。人が不安や強いストレスを感じるのは、大抵が「まだ起きてもいない未来」を頭の中で反芻しているときです。だから、未来の不安を手放し、いま目の前の身体感覚に集中することは、脳の過剰な警戒モードを解除し、精神的な疲弊を防ぐことになります。

登山もまったく同じです。「小屋はまだか」と遠くを探すのを一切やめ、「いま踏み出すこの一歩を絶対に滑らせない」ことだけに意識を絞り込む。未来への不安を手放し、ただ目の前の岩や木の根に淡々と足を置いていくと、不思議なほど心から雑念が消え、静かな集中状態に入っていきます。

登山というものは、時に長い人生を凝縮した縮図のような場面に出会わせてくれます。そうした精神的な気づきや内面の変化を味わえることこそが、登山の持つもう一つの面白い一面なのだと感じます。

奥黒部ヒュッテ到着と夕刻の東沢谷での釣り

累積標高約1,000m。最後に東沢谷の橋を渡ると、樹林の中に静かに佇む奥黒部ヒュッテが見えてきました。渡し船を下船してから約2時間、緊張感から解放された瞬間でした。

東沢谷にかかる橋を渡ると奥黒部ヒュッテ
東沢谷

ヒュッテに到着後、砂地のテント場にテントを設営し、受付を済ませました。山深くに位置するこの場所は空いており、とても落ち着いた時間が流れています。

奥黒部ヒュッテ

しばらく休憩後、さっそくテンカラ竿を手に東沢谷へ向かいました。

しかし、連日の長雨の影響で水量が非常に多く、流れも速いコンディション。僕のテンカラ釣りにはまったく反応がありませんでしたが、ルアーを投げていた友人は、東沢谷の白い砂地になじむ美しいイワナを見事に釣り上げました。

友人がルアーで釣ったイワナ
イワナが釣れたポイント

増水で苦戦とはなりましたが、まずは無事にこの奥深い地に辿り着けたことに安堵。1日目の竿を納めました。

釣りを切り上げてテント場に戻り、楽しみな晩御飯の準備です。 今夜のメニューは、炊きたてのご飯で食べる「親子丼」。

今回はメスティンを使って初めて2合の炊飯に挑戦しました。2合だとメスティンがいっぱいになってしまうため、フタの上に大きめの石をのせて圧力をかけながら炊いていきます。水加減はメスティンの蓋に水を2杯にすこし追加。吹きこぼれる水分を考慮して若干多めにしました。火加減は1合のときと同じ。湯気が出てから超弱火で、炊飯10分、蒸らし10分。

出来上がったご飯は1合で炊くときよりもやや硬めの仕上がりになりましたが、山の上で食べる熱々の親子丼は格別の美味しさでした。親子丼だけで食べきれなかったご飯は、仙台牛タン善次郎の「牛タンおつまみ なんばん味噌」をおかずに頂きました。味噌とご飯、そして牛タンがご飯にぴったりでした。

ご飯を炊いて、親子丼で晩御飯

ヤマレコ記録

詳細なルートの参考用として、ヤマレコの記録をつけておきます。

(後編へ続く)

コメント

タイトルとURLをコピーしました